Core iがCore Ultraに。Intelは、2023年12月に正式リリースしたノートPC向け新世代CPU「Meteor Lake」から慣れ親しんだネーミングスキームをやめました。いまだ打ち慣れてないのですが、それはともかく、今後Core Ultraと呼ばれるノートPC向けCPU(SoC)のiGPUは前評判が高いことはご存じの通りです。
Intel Meteor Lake概要
ラインナップ
ラインナップを改めて整理してみます。基本的に、TDPが15W~57WのCore Ultra "U" と、TDPが28W~115WのCore Ultra "H" の2種類です。適正な消費電力の幅が大きいのわかると思いますが、OS側のスケジューリングでパフォーマンスがかなり変わってしまう、特に低ワット時のパフォーマンスが振るわない、という理屈はこの幅の広さに起因するのかもしれません。
全モデル共通で、SoCタイル内のLowPower efficiencyコアが2個、コンピュートタイル内のEコア8個を搭載。Pコアの数はモデルによって異なります。
Core Ultra 7 155H、Core Ultra 7 165H、およびCore Ultra 9 185Hは、Core i7-13700Hのような前世代モデルと同様に、6つのPコアを搭載しています。この3モデルは、OS上の認識は合計16C/22Tです。
Core Ultra 5 135HとCore Ultra 5 125Hは、Pコアx4搭載モデルです。Core i7-1360PのようなRaptor Lake-Pチップの直接の後継となります。
Hシリーズには、8 Xeコア(Core Ultra 7とCore Ultra 9)または7 Xeコア(Core Ultra 5)と呼ばれる新しいArc GPUを搭載しています。
UシリーズとHシリーズは、最大64GBのLPDDR5/x-7467メモリ、または最大96GBのDDR5-5600メモリを搭載可能です。2024年には、TDPが9W~30Wという低消費電力稼働向けUシリーズモデルが2種類追加される予定で、LPDDR5x-6400メモリを搭載します。
全てのモデルには2つのGen3 Neural Compute Enginesを備えた専用のNPU(ニューラル・プロセッサー)を搭載しています。
チップレット構成
IntelにとってMeteor Lakeでジャンプアップした点のひとつがプロセッサーの主な設計変更です。従来のモノリシック設計から、チップが複数の部品で構成される「チップレット/タイル設計」への変更です。既にAMDが導入している構成で、スケーリング能力の向上や、すべてのタイルを同じノードで製造する必要がないなどの利点があります。
基本的な機能をすべて備えたメインコンポーネントであるSoCタイル、PコアとEコアを備えたコンピュートタイル、GPUタイル、そしてI/Oタイルの計4つの異なるタイルで構成されています。
PコアとEコアが含まれるコンピュートタイルは新しいIntel4プロセス(Intel初の7nm製造プロセス)で製造され、その他のタイルはすべてTSMCで製造されています。
チップレット設計により消費電力は若干高くなっています。
SoCタイル
2つのLowPower efficiencyコアやメディアエンジン、ディスプレイエンジン、そして新しいNPUもこのSoCタイルに含まれています。Intelは、OSがアイドル中の場合に動くようなタスク処理やアクティブ中におけるOS上のバックグラウンド・タスク処理といった基本的なタスクは、PコアEコアを含むコンピュートタイルや大規模iGPUを含むGPUタイルを動かすことなく、このSoCタイルのみで処理できるため電力を節約できると主張しています。
Netflixストリーミング視聴でさえSoCタイルだけで処理できるとしていますが、その際にバックグラウンドタスクもある場合、SoCタイル内の2つのLowPower efficiencyコアで処理可能なのかは疑問です。
コンピュートタイル
Intel4プロセス(7nm)で製造されたPコア(Redwood Cove)とEコア(Crestmont)で構成。先に述べた通り、Eコアは共通で8個、Pコアはモデルによって2~6個搭載します。
GPUタイル
新しいGPUタイルはXeコアで構成され、モデルによってコア数を変化させています。
Uシリーズの4コアiGPUは単にIntel Graphicsと呼ばれ、Hシリーズの場合はIntel Arc GPUと呼ばれます。
AIワークロード
SoCタイル内の専用NPUに加えて、コンピュートタイルとGPUタイルは、要件に応じてAI処理にも使用できます。
テストシステム
notebookcheckのテストでは、Intel 「Meteor Lake」 Core Ultra 7 155H搭載ノートPCで、モデルは2つ、ASUS ZenBook 14とAcer Swift Go 14です。テストに使われた両製品とも最終的な製品版ではないことは注意です。製品版ではソフトウェアやドライバーの最適化が行われる可能性があるかもしれません。
Acer Swift Go 14のTDPは55/45W、ASUS ZenBook 14は50/33Wに設定されていました。消費電力の測定はAcer Swift Go 14のみ。どちらも32GBのLPDDR5x-7467メモリを搭載し、GPUドライバーのバージョンは31.0.101.5122です。
ASUS Zenbook 14
レビュー
CPU本体とiGPUの性能を違いを明確にするため、ベンチマーク結果だけでなく、消費電力、つまり効率にも注目。消費電力測定はすべてが外部機器で行いました。システム全体の消費電力を測定しており、CPUとGPUの消費電力の表示値だけに頼らないことに留意してください。
シングルコア性能と効率
Intelは「(ノートPC向け第13世代Coreから)基本的なアーキテクチャは変わっていないが、さらに改良した」と主張していますが、シングルコア性能においては、Raptor Lake世代よりスコアは低くなっています。AMD Ryzen 7040シリーズに近しいスコアですが、AppleのM3世代やQualcommのSnapdragon X Eliteと比較すると分がだいぶ悪い結果です。
Cinebench 2024/CPU Single Core
Geekbench 6.2/Single Core
Cinebench R23の結果はこちら
Geekbench 5.5の結果はこちら
消費電力という面においてCore Ultra 7 155Hを搭載したAcer Swift Go 14は、Core i7-1360PにCore i7-13700Hを追加したASUS Zenbook 14旧モデルに比べて高い結果となっています。
CPU Package Power Cinebench R23 Single (red: Asus Zenbook 14, green: Acer Swift Go 14)
Power Consumption/Cinebench R23 Single Power Efficiency - external Monitor
マルチコアの性能と効率
過去のIntel CPU群と比べてスレッド数は多くなっており、それに沿ってマルチコアテストではパフォーマンスが向上しています。
とはいえ性能は電力制限に依存します。特にノートPCは顕著に出るデバイスなので、実際に搭載するノートPCによってマルチコア性能は大きく異なるでしょう。
Chinebench R23/Multi Core
Geekbench 6.2/Multi Core
Cinebench 2024の結果はこちら
Geekbench 5.5の結果はこちら
今回レビューしたAcer Swift Go 14のマルチコア効率はRaptor Lake世代より良い結果ですが、Core i7-1360PとCore i7-13700Hに対するアドバンテージは3~11%とそれほど大きくありません。Intelは、Meteor Lake世代においてもAMD Zen4コアやAppleのM3世代に及んでいないとも言えます。
CPU Package Power Cinebench R23 Multi (red: Asus Zenbook 14, green: Acer Swift Go 14)
Power Consumption/Cinebench R23 Multi Power Efficiency - external Monitor
iGPU性能と効率
Intelは、8つのXeコア(128EU)を持つ「Arc GPU」の性能は、Iris Xe Graphics G7(96EU)に比べて倍増したと主張しており、少なくともおおよそはそれを確認することができます。
3DMark 1920x1080 Fire Strike Graphics
Geekbench 6.2 - GPU OpenCL
GFXBench 1920x1080 Aztec Ruins Normal Tier Offscreen
AMD Radeon 780Mよりも高速であり、さらにIntelのノートPC向けdGPUのArc A350MとArc A370Mよりも高速化を果たしています。
ただしモデルによってiGPUコア数は変わってきます。例えばCore Ultra 5に搭載されるiGPUは7コアのArc GPUなので、Radeon 780Mに近いか、わずかに遅くなるスコアに落ち着くでしょう。単にIntel Graphicsと呼ばれるUシリーズの4コアiGPUの場合は、最大クロックも低く、4つのXeコアしか搭載していないことを考慮すると、性能は約50%低下すると推測されます。Intel Graphicsと呼ばれるこの新しいGPUは、古いIris Xe Graphics G7(96 EUs)とほぼ同じ性能レベルになる可能性があると推測しています。
GFXBenchにおいてはQualcomm Snapdragon X EliteやApple M3のiGPUの方がはるかに強力です。
notebookcheckの記事内では、3DMark 2560x1440 Time Spy Graphicsの結果なども掲載されているので要チェックです。
ゲーム別ベンチ
今後のドライバーアップデートで顕著に変わる可能性があります。古いタイトルではIris Xe Graphics G7よりスコアが低くなる可能性も考えられます。
GTA V - 1920x1080 Highest Setting possible AA:4xMSAA+FX AF:16x
Final Fantasy XV Benchmark - 1920x1080 High Quality
The Witcher 3 - 1920x1080 Ultra Graphics&Postprocessing (HBAO+)
より低い消費電力での性能
Cinebench R23でTDPを28W、35W、45Wと固定し、Core Ultra 7 155Hのマルチコア性能を計測。Raptor Lake-P(Core i7-1360P)やRaptor Lake-H45(Core i7-13700H)と比べると性能は向上していますが、3つの電力レベル全てでAMD Ryzen 7 7840Uに負けています。
Intelはマーケティング資料で28Wでの性能を示していますが、実際は28Wや35WといったTDP値でパフォーマンスを出しにくいのがMeteor Lakeなのかもしれません。
その他
PCMark 10やクロスプラットフォームベンチマークのCorssMarの結果、アイドリング時と軽作業時の効率向上、NPUパフォーマンスなど興味深い結果を示しています。
NPU性能に関しては、「iGPUのほぼ半分の電力でiGPUより少し低い処理能力」という高い性能を示しています。
ニューラルネットワークの処理に関しては、NPUの性能はArc iGPUをわずかに下回る程度だが、必要なエネルギーはほぼ半分であることがすぐに明らかになった。これにより、同じアプリケーションでグラフィックチップを使用するよりも、AIアクセラレーターの方が効率的であることは間違いない。
まとめ
Intel 「Meteor Lake」Core Ultra 7 155Hの "予備テスト" 結果は、特にCPU性能の点で厳しいもの(全体的なCPU性能は全世代のRaptor Lakeの時とほぼ同じ)でした。おそらく従来のCPUとは違い広いTDP範囲をカバーするようになったため、特にマルチコア性能は搭載するノートPCによって大きく異なる可能性があります。
notebookcheckの本レビュー時点では「アイドリング時や軽負荷時のIntelの効率に関する主張についてはまだ何も言えない」と述べていますが、この予備テストの結果だけを見ると、シングルコアとマルチコアの負荷シナリオの両方で負荷時の効率がわずかに向上しています。しかしAMDやAppleにはまだ遠く及んでいません。
Meteor Lakeは、iGPU性能を大きく向上させています。AMD Radeon 780Mにも対抗できる仕上がりで、さらに言うならドライバーのアップデートで状況をさらに改善できると考えられます。
とはいえQualcomm Snapdragon X EliteやApple M3シリーズはすごいですね、というオチになってしまいますが……。