AMDは、2023年7月下旬に開催されたChinaJoyエキスポで「Radeon RX 7900 Golden Rabbit Edition(GRE)」を発表しました。このRadeon RX 7900 GREは当初、中国市場専用となる予定でしたがその後変更。グローバル市場でこのdGPU搭載グラボをリリースすこととなりました。そのRadeon RX 7900 GREを搭載した「ASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend」のレビュー記事となります。
AMD Radeon RX 7900 GRE
Radeon RX 7900 GREは、RDNA3アーキテクチャdGPUのハイエンド「Navi 31コア」の中ではエントリークラスであり、Radeon RX 7900 XTのすぐ下に位置するモデルです。Radeon RX 7900 XTに比べてNavi 31コアとメモリ周り、シェーダーが削減されているので総消費電力が低めに抑えられています。
TechPowerUpのGPUデータベースでは、Radeon RX 7900 GREはNavi 31のバリエーション「Navi 31 XL」と記されています。末尾XLのバリエーションは過去、無印モデルに搭載されているGPUでした。筆者が現在利用中のRadeon RX 6800もXL(Navi 21 XL:TechPowerUpデータベース)です。Navi 31 XT(Radeon RX 7900 XT)のやや縮小版でありNavi 31 XLということは、所謂「無印Radeon RX 7900」と感じでしょうか。
AMD Radeon RX 7900 GRE スペック
- アーキテクチャ:RDNA3
- GPU Variant:Navi 31 XL (215-145000206)
- プロセス:5nm GCD+6nm MCD
- ダイサイズ:300 mm2 GCD, 220 mm2 MCD
- CUs:80
- Ray Accelerators:80
- AI Accelerators:160
- Stream Processors:
- ゲームクロック:1,880 MHz
- ブーストクロック:2,245 MHz
- FP16 (half):91.96 TFLOPS (2:1)
- FP32 (float):45.98 TFLOPS
- FP64 (double):1,437 GFLOPS (1:32)
- Pixel Rate:359.2 GPixel/s
- Texture Rate:718.4 GTexel/s
- ROPs:64
- AMD Infinity Cache:64MB (2nd.Gen)
- メモリ:16GB GDDR6
- メモリスピード:18 Gbps
(Effective Memory Bandwidth w/ AMD Infinity Cache:2265.6 GB/s) - メモリバス:256bit
- PCIeインターフェース:PCIe 4.0 x16
- TBP:260W
Radeon RX 7900 XTと比較して最も大きな差は、クロック、メモリ帯域幅とメモリ容量です。18Gbps GDDR6メモリが256bit幅のメモリインターフェイスを介してGPUにリンクされているので576GB/sのメモリ帯域幅に相当します。64MBのInfinityキャッシュの効果を考慮すると、実効メモリ帯域幅は2,265GB/sに跳ね上がります。
Radeon RX 7900 GREが想定するライバルはGeForce RTX 4070である。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Review: AMD Almost Hits The Sweet Spot | HotHardware
モデルナンバーは7"9"00ですが、想定するライバルdGPUはNVIDIA GeForce RTX 4070だとHotHardwareでは指摘しています。売価的には、最近リリースされたGeForce RTX 4070 SUPERやRTX 4070 Ti辺りも想定内。さらにRTX 4070 Ti SUPERも射程に入ればかなり有望なdGPUではないでしょうか。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend
AMDがRadeon RX 7900 GREを中国で発表した際、ASRockは自社のRadeon RX 7900 XT搭載グラボに似たモデルを披露しました。AMD dGPUを展開するサードパーティベンダは、ASRockのこのモデルのようなカスタムRadeon RX 7900 GRE搭載グラボをリリースしています。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionは、AMDのリファレンス仕様と比べてベースクロックは1,500MHz、最大ブーストクロックは100MHz高い2,345MHzという形です。搭載される16GBのGDDR6メモリの実効データレートはリファレンス仕様と同じ18Gbpsであり、製品名通りGPUをOCした製品といえます。
出力端子は、3つのDisplayPort(DP 2.1)と1つのフルサイズのHDMIポート(v2.1)で構成されています。
ベンチマーク
LuxMark v4.0
LuxMarkは、クロスプラットフォームのOpenCLアクセラレーション3Dレンダリングベンチマークです。
オープンソースのLuxRender物理ベーススペクトラルレンダリングエンジンをベースにしたツールで、光の輸送を正確にモデル化し、ハイダイナミックレンジをサポート。LuxRenderは、フォトリアリスティックで芸術的なシーンのレンダリングを可能にする数多くのマテリアルタイプを備えている。
LuxRenderはGPLの下でライセンスされたフリーソフトウェアで、Blender、Maya、Cinema 4D、3DS Maxなどのパッケージ用のプラグインを提供している。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Review: AMD Almost Hits The Sweet Spot - Page 2 | HotHardware
LuxmarkベンチにおいてASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionは、AMD Radeon RX 7800 XTよりも速く、Radeon RX 7900 XTとの差は比較的大きいという順当な結果になりました。対NVIDIA dGPU比という話では、GeForce RTX 4070の後塵を拝しています。
IndigoBench Rendering Benchmarks
IndigoBenchは、Indigo 4のレンダリングエンジンをベースにした、Windows、MacOS、Linux対応のベンチマークです。
このベンチマークソフトにおいてNVIDA GeForce RTXシリーズは大きなアドバンテージを示しています。ASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionは、Radeon RX 7800 XTより低い結果となっており、この理由をHotHardwareではメモリ周りの仕様を原因にあげています。
これはメモリが低クロックでありメモリ帯域幅が低いためである。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Review: AMD Almost Hits The Sweet Spot - Page 2 | HotHardware
3DMark Speedway
Speedwayは、3DMarkに追加された最新のテストです。DirectX 12 Ultimate APIを使用し、DirectX Ray Tracing tier 1.1によるリアルタイムグローバルイルミネーションやリアルタイムレイトレースリフレクション、メッシュシェーダ、高解像度テクスチャやアートワークなどの高度な機能を活用したテストです。
レイトレの性能を測るテストではやはりNVIDIA dGPUに一日の長がありますが、GeForce RTX 4070に近しい結果を出しています。
3DMark Time Spy Extreme
おなじみ3DMarkのTime Spy ExtremeにおいてASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionは、NVIDIA GeForce RTX 4070 Tiに近しい結果を叩き出しています。
Unigine Superposition
SuperpositionはUNIGINE 2 Engineを搭載したUnigineの最新ベンチマークです。DirectXとOpenGLの両方のコードパスを使用し、VRだけでなくゲーミングワークロードをターゲットとした様々なベンチマークモードを提供。
フレームレートを示したグラフを一例にしますが、ASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionの結果は一目瞭然。NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti SUPERをも超えていきます。
Forspoken
実ゲームベンチの最初は、スクエニのForspokenです。
1440p環境では仮想敵であるNVIDIA GeForce RTX 4070を超え、GeForce RTX 4070 SUPERと同等のレベルを維持。
よりヘビーな4k環境でもGeForece RTX 4070 SUPERに喰らいついている印象ですが、実はミニマムのスコアでは大きく差を広げているのがASRock Radeon RX 7900 GRE Steel Legend OC Editionです。
FarCry 6
FarCry 6の場合もForspoken同様、NVIDIA GeForce RTX 4070を超えてGeForce RTX 4070 SUPERと同等レベル、GeForce RTX 4070 Tiにも近しい結果といえます。
Cyberpunk 2077
そもそも重いゲームであるCyberpunk 2077においてレイトレ性能チェックです。グラフをチェックするまでもなく、AMD dGPUには厳しい結果になるだろうという予想が立ってしまいます。
Cyberpunk 2077はGPUクラッシャーであり、NVIDIAのレイトレーシング性能のショーケースのようなものである。ここでは、ASRock Radeon RX 7900 GREはGeForce RTX 4070 から数パーセント引き離されているが、それほど大きなものではない。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Review: AMD Almost Hits The Sweet Spot - Page 4 | HotHardware
消費電力
消費電力チェックでは、NVIDIA GeForce RTX 4070/4070 SUPER、4070 Ti/4070 Ti SUPERのゲームプレイ時とそれ以外のワークロード時の差が印象的です。AMD dGPUは反対に、その差が小さい結果となっています。
まとめ
AMD Radeon RX 6800ユーザである筆者的には、まさにハイエンドGPUコアのXL版といった仕上がりといえます。筆者がRadeon RX 6800を選んだ理由まさにそのままといえるからです。ハイエンド帯っぽいコア性能とメモリ周り、それなりに消費電力が低い傾向があるという感じでしょうか。
とはいえチップレット構成を初めて採用したAMD GPUであるNavi 3.x/RDNA 3シリーズらしい電力効率をみせており、個人的に乗り換えるのならば同路線で熟成されるであろう次のNavi 4.x/RDNA 4シリーズを考えたくなります。
NVIDIA dGPUとのレイトレ性能差が縮まっている点も好印象ですが、そもそもレイトレを利用しない場合、対NVIDIA dGPUで差をつけている状況も多くなっています。初めてAMD dGPUを導入しようという場合や古いdGPUからのアップグレード先としてはかなり有望なモデルといえます。
AMD Radeon RX 7900 GREのレイトレーシング性能は、Radeon RX 7800 XTよりもはるかに優れている。さらに(特にこの価格帯における)NVIDIAのレイトレーシングの優位性を少し緩和している。従来のラスタライズ性能ではRadeon RX 7900 GREが大きなアドバンテージを持っており、(消費電力は比較的やや高いが)AMDはこのGPUで素敵なバランスを取っている。
ただ、AMDがGPUとメモリのクロックにもう少し積極的であって欲しかった。AMDがGPUクロックを2、3ポイント上げ、Radeon RX 7800 XTで行ったように多少高速なメモリを搭載できれば、(この価格帯を維持したまま)NVIDIAにさらにプレッシャーをかけることができただろう。
しかしながらこの価格帯のGPUは常にバランスを取ることが重要であり、AMDはここでうまく差を表現した。
最終的に、Radeon RX 7900 GREは現在のGPU状況において競争力のある性能がありつつお買い得。比較的手頃な価格でありながら強力なアップグレードを探している1440Pディスプレイのゲーマーにとって完璧な仲間であると思う。
ASRock Radeon RX 7900 GRE Review: AMD Almost Hits The Sweet Spot - Page 5 | HotHardware
対NVIDIAという点では、HotHardwareの指摘通りGeForce RTX 4070搭載グラボとガチンコで勝負できる仕上がりです。GeForce RTX 4070 SUPERとも争える、と言っても過言ではないと思われます。国内販売価格的にも近しい関係です。
ただしレイトレ性能ではNVIDIA dGPUに軍配が上がります。また、NVIDIAが提供する「NVIDIAアプリ」の多彩さは魅力的に映ります。